「他人(ひと)がなるもの」和田与市さんは自身が告げられた病名「胃がん」をこう思っていました。
一昨年の年明け、風邪のようだと心配し、魚沼病院を受診しました。診察室で、秋に受けた検診の結果をこのとき知らされたのでした。
「和田さん、胃がんの可能性が高いよ」
医師の言葉に愕然としたそうです。消化器専門の医師を紹介され、再検査を行い、その結果早期の胃がんであることがわかりました。病名には驚きつつも、「早期がんであること」と「生命に別状ないこと」を告げられ、少し気持ちが楽になったのでした。
その年の三月中旬、手術を受けるために魚沼病院に入院しました。 主治医と紹介された外科の先生が若い先生でしたので、少し不安な気持ちになりましたが、運を天に任せ、手術台に登ったのでした。麻酔が切れ、気が付いた時は、胃はすべて切り取られていました。
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もともと歌やにぎやかなことが大好きな和田さん。手術が終わったその晩、「気分がいいから」と小学校の校歌を歌い、注射に来た看護師さんは、「大手術をした晩に歌を歌うなんて、和田さんだけだ」と驚いていたそうです。
その後、順調に回復した和田さんに、手術後わずか二週間で異動する外科の医師は、「手術の後、様々な検査をしたけど、傷口の悪化や転移の心配は全くないから。安心するように」との力強い言葉を残していったそうです。退院後は二カ月に一度の通院をしています。
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三月に八十五歳になったばかりですが、とても元気。
「ほら、これをみてくれ」と取り出したノートには、和田さんがしたためた短歌が、ビッシリと埋め尽くされていました。
その中で、和田さんが差し出した短歌は、
「全摘の胃がん手術を
無事終えて
ハンドル握れる
今日の喜び」
まさに今の和田さんの心境を表した一首といえます。
短歌は夜中にふと思い浮かぶこともあるとか。となりで眠る奥さんのヨシさんを気遣い、懐中電灯で照らしてノートに書きとめることもあるそうです。
短歌にもあるとおり、今でも元気に車も乗りこなします。手術前は遠出もしていたそうですが、今はヨシさんの市街への買い物の送迎がほとんどだそうです。
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食事を気遣う和田さんは、手術のあと喉ごしのいいものをできるだけ口にするようにしているそうです。「うどんとか、柔らかく煮た豆とか昆布とかね。それなら食べるから」と、隣でヨシさんがこたえます。
このほか息子さんの農作業を手伝ったりと毎日大忙しのようです。
体は以前のように思うとおりにはいかないはず。それでもここまで頑張れる理由を問うと、「ボケ防止のため。なんぎぃ(辛く)たってやるんだ」と笑って答えてくださいました。
傍らで一緒に笑うヨシさんの顔を見て、夫婦二人三脚の闘病生活を垣間見たようでした。
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